Lifetimeのジャケット写真
名盤ライブ Extra
Lifetime
GRAPEVINE
2014年5月19日(月)
GRAPEVINE
IN A LIFETIME
at SHIBUYA-AX
Lifetime
GRAPEVINE
  • 01いけすかない 作詞:田中和将/作曲:西川弘剛
  • 02スロウ 作詞:田中和将/作曲:亀井亨
  • 03SUN 作詞:田中和将/作曲:亀井亨
  • 04光について 作詞:田中和将/作曲:亀井亨
  • 05RUBBERGIRL 作曲:田中和将
  • 06Lifework 作詞:田中和将/作曲:西川弘剛
  • 0725 作詞:田中和将/作曲:西原誠
  • 08青い魚 作詞/作曲:金延幸子
  • 09RUGGERGIRL No.8 作曲:田中和将
  • 10白日 作詞:田中和将/作曲:亀井亨
  • 11大人(NOBODY NOBODY) 作詞:田中和将/作曲:西原誠
  • 12望みの彼方 作詞:田中和将/作曲:西川弘剛
  • 13HOPE(軽め) 作詞/作曲:田中和将
本企画は “名盤ライブExtra”としてDVD&BOOKを付属しない形でアルバム再現ライブを行いました。
THE LIVE
15年前のこの日に発売された名盤『Lifetime』再演ライヴ
同時に新たなるスタートを発売した彼らは、はたして“優しくなれた”のか?
15年前のまさにこの日、5月19日にリリースされたセカンドアルバム『Lifetime』を、完全再現と銘打って曲順も変えずに演奏する
―今回のグレイプバインのトライアルライヴについて、どうやら一部地域では「へー、なつかしい曲やったんだー」程度のリアクションしかなさそうなので、まずは最初に私がその難易度について力説しておきたい。
この件をわが身に引き寄せて考えてみるには「あなたは15年前に着ていた服を今、改めて着れますか?」という問いかけに辿り着く。それはゾッとするというか、ほとんど罰ゲームかと思われる行為だ。当時本気でカッコいいと思っていた服を公衆の面前で着せられるおぞましさ。おまけに流行やセンスのズレ(若気の至り)だけならまだしも肉体の変化も同時に起こっているわけで、サイズがピチピチ、袖が入らない……なんて事態が起こる可能性も当然ながら無限大。つまり15年ぶりの再演、やる方にしてみればお気楽でもノスタルジックでもないんだぜ(むしろ逆)といった前提の上で、さて、実際はどうだったのか?
1曲目は「いけすかない」。『Lifetime』でも1曲目に置かれたこの曲のギターリフが鳴った瞬間、AX内の時間軸が混線した。1999と2014がワームホールでつながって、あの頃のザワつきが肌によみがえる。個人的にはこの感覚を味わえただけでもこの日の企画は意味があった気もするが、しかしそこから感じたのはナカナカに複雑な感情だった。とにかく演奏がぎこちない。それは特に「スロウ」「光について」といったシングル曲において顕著で、いわゆる当時の彼らの代名詞である“重くて切ない系”の楽曲との距離の取り方には相当苦労しているようであった。往年のシャツを着こなそうとするのだが、どうしても無理がある。それは皮肉にも過去の曲を再演しながら、もはや重くもなければ切なくもないというグレイプバインの現在地を照射していた。今の彼らは蒼くもないし、膿んでもいない。ここを期待して来たお客さんははたしてどう感じたのか、興味深いところである。
ということで再演部分に関しては「一番素直に演れてたのはインストかな?」というクールな感想を抱いたわけだが、『Lifetime』を再現する第1幕が終わり、無礼講の第2幕の冒頭に演奏されたのが近年の彼らの定番曲である「This town」。ここでバンドは窮屈な衣装を脱いで普段着にチェンジしたように見えた。会場が一気に色めき立ち、音楽にいきいきとした血が通いだす。それはある意味、『Lifetime』が前フリとして使われた感覚というか、僕たちは過去のバインに触れるためにここに来たはずなのに、気が付けば「やっぱ今のバインがいいわ」と再確認するという、おかしな現象が起こっていたのである。
後ろを見ていたはずがいつの間にか前をみている―結果的にこの日はグレイプバインというバンドにとって過去と未来が交錯する重要な一日になったようだ。ライヴ後半、田中の口からはビクター・スピードスターレコーズへの移籍という重大ニュースが発表された。デビュー18年目での移籍というのはバンドにとって一大事だが、このムードの中でその発表はひどくポジティブに耳に響いた。田中も笑顔で、どこか照れてる風でもある。何かが吹っ切れた風でもある。それは偶然かもしれないが、直前に『Lifetime』という大事な過去(しかし同時に終わった過去)を再確認したことと無関係ではないだろう。
『Lifetime』再現ライヴの中で、インストとは別にもう1曲「当時より今の方が似合ってるなぁ」と思えた曲があった。それが「Lifework」というタイトルトラック風の曲で、くしくもこの中には『Lifetime』のキーフレーズともいえる言葉が埋め込まれていた。
〈優しくなれたら愛をうたおう〉
当時のこのフレーズは彼らの立ち位置を象徴する言葉として、あちこちで引用されたものである。あれから15年。実際彼らが優しくなれたのか優しくなれていないのか、それは一概に判断できるものではないが、それでも今回本編のラストに「超える」を持ってきたそのチョイス、移籍発表という祝祭感の中、15年前のアルバムを一緒に共有してくれたお客さんたちの前で〈だけど降ってきた偶然/こりゃもう思し召しと信じて〉〈今 限界をも超えるそのくらい言っていいか〉とブチ上げてみせたその態度―それはもしかしたら彼らなりの“愛のうた”ってる姿なんじゃないのかと一瞬、思ってみたりした。
まあ、その後アンコールで演奏されたのは騒々しさ無視の「アナザーワールド」だったわけで、そのあたりのかわし方は相も変わらず天邪鬼ゥゥゥゥッ!ではあるのだが。
とにかく。
グレイプバインというバンドにとってひとつの時代が終わった。そして新しい時代がまたはじまる。そのはざかい期に開催されたこの日のライヴは「IN A LIFETIME」―その名の通り、人生のさまざまな瞬間が交錯したエアポケットのような体験だったのである。

©音楽と人 2014年7月号 文=清水浩司